【1】. システム開発のプロジェクト管理の事例
黒田 賢三(さくら総合研究所)
1.大企業の例
(1)新聞社マルチベンダーシステムの事例
新聞記者の記事作成を支援するシステム。
記者がノートPCで入力した記事を、キャップ、編集長の記事選択と校正、整理部のレイアウトを経て新聞製作システムへデータが接続される。
SI形式ではなく、ユーザ企業の情報システム部門が統括管理。
ほぼ、マスタースケジュール通りにシステム稼働。ソフト開発コストは、1〜2割オーバー(基本的に開発会社持ち出し)。
(特徴)
●全体規模約1700人月、開発ベンダー数5社
●委託会社(ユーザ企業)のリーダーシップが強力
●チーム単位に作業を進めるが、必要な局面(共通の検討事項)で合同会議を開催
●ユーザのドキュメンテーション能力が高く、紙ベースのコミュニケーションを実施
●仕様変更は極力排除

(2)金融系カードシステムの事例
信販系カードシステム(第4次オン)開発。
約300万ステップ?規模の開発。コンピューターメーカをSI元請けとしてソフト開発会社大手3社の開発体制で実施。(契約的には、ユーザ企業のシステム開発子会社がSI受注、さらに子会社がメーカへ発注)
マスタースケジュールに対して、約半年遅れでシステム稼働。予算は、2〜3割(20億〜30億)SI予算よりオーバー。
(特徴)
●全体規模約10000人月、開発ベンダー数3社
●SI元請け会社(コンピューターメーカー企業)がリーダーシップ
●チーム単位(17チーム)に作業を進める、合同会議は進捗報告会のみ(チーム間の会議は適宜実施)
●開発標準を重視。システム共通部品、コーディングパターン(スケルトン)を作成
●進捗、品質は基本的にベンダー3社任せ
●元請け会社は、各チームのリーダーの能力を重視

2.中小企業の例
(1) 食品関連の販売管理システムの事例
元オフコンシステムをリース切れのタイミングでダウンサイジング。PCサーバーとクライアントPCで構成。PC用の開発言語(db−Magic)を使用して開発。マスタースケジュールに対して、2ヶ月遅れで本番稼働。8ヶ月遅れで安定稼働。開発コストは、見積もりのほぼ2倍程度掛かったと思われる。(開発会社の持ち出し)
(特徴)
●受注時点でコンペのため、かなりの見積もりコストダウンを実施
●震災の影響でスタートが1ヶ月遅れ
●当初は、スケルトンベースの開発で予定していたが、実際にはほぼ100%新規作成
●ユーザ側テスト検証能力が低い
●プロジェクトのリーダーシップが曖昧(ユーザかベンダーか)
● 開発担当者の能力が低い(リーダーのSEは優秀)
●システム納品後のプログラム不備が多発

(2) OA機器販売の販売管理システムの事例
元オフコンシステムを業務改善に合わせてシステム再構築。PCサーバーとクライアントPCで構成。PC用開発言語(VBとSQLサーバー)を使用。本番は、約1ヶ月遅れで稼働。但し、若干のトラブルは継続して対応中。開発コストは、約1.5倍程度かかったと思われる。ユーザ企業から1〜2割の追加請求を実施。
(特徴)
●受注時点でコンペのため、かなりの見積もりコストダウンを実施
●基本設計を計画の2倍程度工数で実施(期間を延長)
●開発立ち上がり時に、不慣れな技術(開発ベンダー営業がアピールして採用)を使用したため、技術的トラブルが多発
●ユーザ側テスト検証能力が低い
●プロジェクトのリーダーシップが曖昧(ユーザかベンダーか)
●リーダーのSEが優秀なため、遅れ対策がスムーズ
●オブジェクト指向の開発のため、従来型の進捗管理が不能
(完成/仕掛かり/未着手件数把握による管理が無意味)