第84回月例研究会「CMM概説と企業への導入事例」 報告
日時 平成13年10月30日
場所 労働スクエア東京労働スクエア701会議室701会議室
演題 CMMレベル3取得
講師 (株)東芝 e−ソリューション社
ISセンター 経営変革上席エキスパート
坂井 務氏
(文責:No.602 小倉道雄)

はじめに

 e−ソリュション社は株式会社東芝の八つある社内カンパニーの一つで総員500名、うちビジネスアプリケーション部門350名、エンジニアリング部門150名である。今回ソフトウェアCMMの対象としたのはビジネスアプリケーション部門の350名である。このような大規模、広範囲(東芝グループ内外システム)、短期間24ヶ月でレベル1から3に到達したのはきわめてまれ(通常47ヶ月かかる)とのことであり、その経緯について講演いただいた。

講演要旨

1. CMM概説

 CMMとはCapability Maturity Model の略で、組織の開発プロセスを成熟度にあわせて改善していくことができるモデルである。カーネギーメロン大学が、84年SEI(Software Engineering Institute)を設立、国防総省の要請に応じてワッツ・ハンフリー氏が開発したものである。

(1) CMMファミリー

 発展段階に応じ以下の7つがある。

  • Process maturity Framework
  • Software CMM
  • People CMM
  • System Engineering CMM
  • IPPD CMM
  • Acquisition CMM
  • CMMI

 CMMIは上の6つをインテグレートしたものであるが、現在実際に使われているのはソフトウェアCMMである。
(詳しくは、http://www.sei.cmu.edu/sei-home.htmlを参照、日本語版はsei→seaとすれば良い)

(2) CMMの3つの基礎

 CMMは以下の3つの要素をベースとして作られている

  • Process Engineering
    プロセス領域、ベストプラクテス
  • Total Quality Management
    定量的管理、継続的改善
  • Organizational Change & Development
    文化と成熟度、変更管理

(3) 成熟度のレベル

 以下の5つのレベルがある。

  • レベル1:予測不可能で制御が不十分な組織
  • レベル2:プロジェクトレベルでプロセスが反復可能な組織
    Plan→Do→checkをまわせる。
  • レベル3:組織全体でプロセスが標準化され反復が可能
    ソフトウェア資産が存在する。
  • レベル4:管理が組織的に計測・制御される組織
    目標に向かい改善されている。
  • レベル5:プロセスの改善が組織的・継続的にできる組織
    プロセスの統計的分析が可能

(4) 全世界の成熟度分布

 SEIへの報告分の分布は以下の通り
 レベル3以上は28%しかない。

  • レベル1-326件/1012件( 33% )
  • レベル2―398件/1012件( 39% )
  • レベル3―196件/1012件( 19% )
  • レベル4―55件/1012件( 5% )
  • レベル5―37件/1012件( 4%)

(5) プロセス改善効果事例

 具体的な効果事例は以下の通り

  • 生産性―35%向上
  • テスト前欠陥検出率―22%向上
  • 納期―19%短縮
  • リリース後欠陥率―39%減少

2.東芝における導入事例

(1) CMM導入の背景・目的

  • 日経コンピューターによれば現在ソフトウェア製造現場では開発するソフトウェアに対する責任感、倫理観の欠如等のモラルハザードが起っており、ほとんどの現場はプロジェクトの納期、品質、設計変更等の問題に追われている
  • 開発は前工程では前プロジェクトの後始末、後工程では工数の集中という悪魔のサイクルとなっている。
  • 無手勝流徒弟制度、属人的・部分最適の集合ではCSの満足は得られれなくなってきた。また実務者も仕事上では文化的な幸福感が得られなくなっている

 以上のような状況から東芝では属人性からの脱皮、出荷品質の向上、正論が通る管理の実現、自律心を高め自主的な改善活動の実現、組織の実力にあわせてモデルを作成・適用・改良していける仕組みを導入する目的でCMMを採用した。

(2) CMM導入の効果

 レベル3では制度化の確立がゴールであるため、最大の効果としてはフレームワークの確立、プロセスの確立ができたことである。
 具体的な効果として以下が顕著であった。

  • 役割・責任の明確化
  • ドキュメント化の促進
  • 作業範囲・目的の明確化
  • 課題の共有化
  • 資産の再利用
  • 進捗の明確化

(3) レベル3までのロードマップ

1999/7月 体制作り
1999/8月 GAPアセスメント
(レベル1)
1999/11月 ベストプラクテスの特定
(社内に範を求める)
プロセス定義・承認、パイロッティング
2000/4月 プロセス改善V1.0
2000/4月 全員プロセストレーニング
2000/4月 プロセス本格実施
2000/6月 第1回内部品質監査
2000/11月 第2回内部品質監査
2001/3月 第3回内部品質監査
2001/6月 最終L3アセスメント
(公認アセッサーによるアセスメント)

(4) 導入体制

 導入の組織体制は以下の通りである

 本部長−部長−プロジェクトマネージャ−プロジェクトリーダ−チームメンバーをラインとして、支援グループとして部長−SEPG(プロセス定義、教育等)−SQA(インプリメント内部監査)を本部長直属で専任とした。(SEPG:System engineering process group, SQA:Software quality assurance)
 さらに品質保証度を向上するため品質管理会議を設け、意思決定機関とした。また開発保守グループを設けメンテナンスを図った。

(5) CMMの実装方法

 CMMの具体的実装方法としてレベル2、レベル3を目標として年に3〜4回の内部品質監査を行うとともに、プロセス定義、ソフトウエア構成管理、変更管理、日程管理等のツールを提供して効率的に実行を図った結果、多数のQMSプロセスを成果物として蓄積できた。
またその結果を組織の遵守率で見ると1回目監査では53%、2回目では83%、3回目では98%、2001年6月にはほぼ100%に向上した。

(6) 実施上の問題点と成功要因

  • インプリメント上での問題点
    社内には抵抗するもの、無視するもの外見のみ実施を装う者等いたがSEPGが嫌れ者になり推進を図った。また一時的には生産性の低下も見られたがすぐに過去に倍する向上が見られた。
  • 当社の成功要因(CSF)
    スポンサー・上級管理層のやる気、専任組織、絶え間ない説得、地道な訓練、頻繁な内部監査、ツールドリブン思想の排除、CMM取得経験者のコンサルを受けたことなどがあげられる。
  • 今後の目標
    レベル3をさらに身につくものにして常態化を図り、2002年度にはレベル4を目指したい

3.Q&A

Q: ISOとの関係は
A: 他の販売部門はISOを採用しているがISセンターは組織を強くすため成熟度を計れるCMMの方が適していると考えた。
Q: 内部品質監査はCMMにはないと考えていたが
A: SEIにはある。内部監査は1、2回目はチェックリストを作成し監査、3回目は模擬的に監査を想定し行った。
Q: レベル2で要件管理はどのような形で行ったか。
A: CMMには具体的に書いてない。また要件は完全な形で把握することは難しい。変更があることを条件としてアバウトな合意のもとにプロジェクトでやっている。
Q: SEPG,SQAは何人位か
A: 双方をあわせて8人くらい。
Q: アセスメントしてくれる企業、機関はどのくらいあるか。
A: 2年前では2人いたが、今はもう少し多いかもしれない。宗松プロジェクト工房がある。コンサルはインドの企業に依頼した。
Q: 審査認証機関はないか
A: CMMの認証機関はない。
Q: アメリカで調達する場合は
A: 調達にはあるが、組織にはない。
Q: ISOには要求事項がかかれているが
A: ISOではCMMより詳しく書かれている。
Q: ISOとは視点が異なるのか
A: ISOはできるか、できないかのデジタル的表現であるが、CMMはアナログ的表現を使っているため途中の成熟度が分る。
Q: 教育訓練はどのように行ったか。
A: SEPG,SQAについてはコンサルタント会社に依頼し計画を作って、もらった。アセッサーはリードアセッサー1人、メンバー6人を社内ソフトの研究部部門等から選んで2W間の教育訓練を行った。
Q: レベル2からレベル3へいくのに同じアセッサーか。
A: 同じ人である。誰がアセスしても余り変わらないと思う。
Q: 350人の教育訓練は
A: 25名位入れる教室にて、座学とOJTで行った。また毎週ミーティングを行いQ&A形式の教育を行った。

4.感想

 一桁少ない組織で単に標準化を図るだけでもその徹底を図るのが難しいのに、350名もの組織に対し、短期間でそれ以上は9%しかないレベル3の徹底が図れたと言う事は驚嘆に値すると考えられる。成功要因にもあるようにトップのリーダーシップとスタッフのなみなみならぬ努力の賜物であろう。さらに短期間でのレベル4の認証の取得を祈念するとともに、その暁には再度の講演をお願いしたいと考えます。