第78回月例研究会「苦情処理マネジメントシステム規格」報告
日時 平成13年11月27日
場所 労働スクエア東京
演題 「苦情対応マネジメントシステムについて〜JIS規格発効を通し〜」
講師 東京海上リスクコンサルティング(株)
第二事業部 環境・製品安全グループ
グループリーダー 友田 靖己氏
(文責:No.526 富山伸夫)

 東京海上リスクコンサルティング(TRC)社は、1996年8月に設立された社員60人程の会社で、業務内容としては、保険引受時のリスク評価、自然災害・製造物責任・環境等の事故予防対策、事後対策(危機管理)の支援、製品安全と顧客満足に関するコンサルティングなどをおこなっている。

講演要旨

1.はじめに

 昨今の食品異物混入問題などで、危機管理体制云々ということが言われるが、クレームの発生そのものは危機ではない。消費者・ユーザーが危険にさらされる可能性があれば、リコールするのは当たり前で、毎月何件も処理されている。「危機管理」とは、重大事案発生時の復旧対策、ダメージ低減対策であるが、クレームが危機的状況に発展してしまうと、有効な対処法はほとんどない。
 そこで、クレーム対応の位置付けを日常の本来業務として認識し、その目的を企業防衛ではなく、顧客が満足すること、安全であることにおくことが重要である。そして、クレーム対応に重大な問題を引き起こすリスクが無いかをチェックしておくために、JIS新規格である「苦情対応マネジメントシステムの指針」の利用が有用である。

2.JIS新規格のご紹介

 標準化の背景としては、消費者保護の考え方が進展しているなかで、商品・サービスのグローバル化により全世界に均等に対応が必要になってきたことがある。又、商品のサービス化により、たとえばテクニカルサポートを一本化して行う必要がある。このために、大規模コールセンターが出現し、そのコールセンターをアウトソーシングすることが行われると、対応品質のレベル確保の面でコミュニケーションリスクが懸念されるようになった。また国際規格においても、こうした品質保証に顧客満足の要素が取り込まれるように、ISO9000シリーズの2000年改訂が行われることとなった。

 顧客満足に関わる標準化の動向としては、次の年表にしめす。

年月 規格名
1987年8月 マルコムボルドリッジ賞(米国:国家)
1995年2月 AS4269(オーストラリア:国家)クレームハンドリングを規定
1995年12月 日本経営品質賞(日本:民間)
1996年 COPC−2000(米国:民間)
コールセンターアウトソーシングに伴う品質確保
1998年5月 ISO/COPOLCOで議論開始
1999年4月 BS8600(英国:国家)
顧客対応の仕組みを規定
2000年2月 HDIサポートセンター規格
ヘルプデスク関連
2000年10月 JIS Z9920制定(日本:国家)
2000年12月 ISO 9001−2000(予定)(国際)
2001年? ISO規格化(国際)

 以上のように1995年半ばより急展開を見せており、各企業ではやらねばならないような状況になってきている。一方コールセンターは雇用の場として、沖縄や北海道などで誘致されだしている。

 10月20日制定されたJIS Z9920:2000は、「苦情対応マネジメントシステムの指針(Complaints handling management systems-Guideline)」であって、その目的は、「企業や団体などの組織が消費者の満足度を高めるために、消費者苦情に対し、適切かつ迅速に対応するために不可欠な要件を指針として定めたもの」である。
 この規格の特徴としては、

  • 強制力のあるものではなく指針である
  • 規模、民間・公共の如何を問わず導入できる
  • 消費者苦情対応に関する国際標準化を視野に入れている
  • 組織は、この規格に則り、苦情対応を行っている旨の自己宣言をすることができる(自慢してもいいということ、但し表示は別)
  • 苦情対応を単に苦情対応部門のみではなく、組織が組織全体として行うものとして規定している
  • 苦情対応技法(テクニック)を定めたものではなく、マネジメントシステムについて規定したものである

3.苦情対応マネジメントシステムの構築

  1. 組織の最高責任者の責務
     苦情申し出者の権利を認識し、製品の提供に関連して、消費者の満足を継続的に改善することを目的に、苦情対応に関する自らの関心と責任を明確にし、苦情対応マネジメントシステムを構築する。
  2. 苦情対応責任者の業務
     苦情対応の手順として、苦情内容、問題点の明確化、及びその原因調査。調査の経緯及び結果の記録。解決策の提案、交渉。防止対策ならびに改善策の効果の検証。活動結果の最高責任者への報告などがある。
  3. 苦情対応のための経営資源
     経営に必要なものとしては、想定される苦情に対して対応可能な資質を持つ人材・苦情対応者を支援するための専門家、資金、設備、情報システムがあり、さらに継続的な研鑚の機会が必要である。
  4. 情報提供活動
     消費者に対し、提供する製品、又は付帯サービスについての情報、及び組織外の苦情対応機関についての情報などの提供をおこなう。
  5. 監査
     苦情対応に対する監査を定期的に実施し、評価・見直しにつなげる。

4.苦情対応の要素

 苦情対応のための原則を整理すると以下の要素がある。

  1. 公平性(申し出者の権利の尊重、対応手順の明確化)
  2. 透明性(対応状況の説明)
  3. 苦情申し出の容易性
  4. 支援(情報提供活動など)
  5. 応答性(対応範囲、見通しなど)
  6. 費用(取決めによる。通常無料)
  7. 苦情を申し出者に生じた損害への対応
  8. 苦情要因の是正及び予防処置
  9. 記録

5.東京海上リスクコンサルティング社のコンサルティング

 苦情対応の要件、苦情対応マネジメントシステム構築の手順、苦情対応マネジメントシステム規格適合診断の紹介、診断項目、チェック項目(例)、診断例、より詳細な分析支援コンサルティング、苦情対応マネジメントシステム構築支援コンサルティング、などの紹介があった。

(質疑)

Q: コールセンターのような、苦情対応のシステム化が必ず必要か
A: 業種業態によりケースバイケースだ。お客用電話窓口10−20席で済むところもある。
逆に情報システムを入れても、企業の思想が肝腎である。
Q: 苦情対応可能者の資質というものがあるのか
A: こうした仕事に向かない人は、客観性を保てない人、すぐ熱くなる人。深刻に受け止める人、エスカレーションコールなどに会って解決が遅いと悩む人。自分の意見を出す人。などがある。
Q: 審査登録は
A: ない、自己宣言でやる。
Q: ISO化の時期は
A: 来年にも
Q: BS,ASの導入動向は
A: ASはオーストラリヤの自治体に導入されている。
Q: ワッペンなどは
A: ない

 より詳しくは、ホームページ http://www.tokiorisk.co.jp/ にてご覧下さい。

(感想)

 ここ2〜3年、苦情対応の仕方が企業盛衰の鍵を握っている有様を目にすることが多い。組織的な対応が要ることから、まさか規格が出来ようとは、古い企業感覚では取り残されてしまう、まさに大変な世の中である。

以上